昨今、第3次中学受験ブームといわれ、中学受験をテーマにしたマンガ『二月の勝者』がドラマ化されるなど、中学受験に注目が集まっています。
教育熱心な家庭なら一度は考える中学受験、その加熱の背景には80~90年代の中学受験ブームを経験した世代が親になっていることも一因です。
ESLclubマーケティングディレクターの橋本さんは、約30年前に中学受験を経験。自らの体験を振り返りながら、「中学受験のメリットとデメリット」や「今の社会で子どもの教育をどう考えればいいのか」などについて、ESLclub事業責任者の岡山太、教室長兼プランナーの石垣亮太とともに語り合います。
中学受験と教育についてより深く、違った視点で考えてみたい方、ぜひ読んでみてください!
母親が絶叫する6年の夏――辛い思い出だった中学受験
<橋本圭司(左)プロフィール>
「ESLclub」マーケティングディレクター。約30年前に中学受験を経験し、早稲田実業学校に入学。新卒でソフトバンク入社後、マーケティングコンサル企業を経て独立。現在はイラスト世界チャンピオンとともにDT合同会社を運営し、主にアート・教育領域で活動している。一児の父。自身の経験を踏まえ、これからの社会で必要となるスキル・マインドを子どもに届けるために育児を実践中。
<岡山太(右)プロフィール>
英語を教えない英語塾「ESLclub」事業責任者 兼 個別指導No.1明光義塾英語教科責任者。大学院生時代にJAXAにて高校生向け教育プログラム「きみっしょん」のリーダーを経験したことから、「教育を変えたい」と考え教育業界へ。長期留学経験なし、国内独学で英検1級・TOEFL iBT 100点を達成。自身の英語学習経験を生かし、ESLclubのオリジナルカリキュラムを構築。二児の父。
橋本)僕の中学受験に足を踏み入れるきっかけは、東京の多摩に住んでいたんですが、小学4年生の頃に同じマンションの友達が塾に行きだしたことでした。
塾では週1でテストがあって、クラスも成績別、席も成績順でした。6年になると一番上のクラスは「栄冠クラス」っていう名前が付いていましたね。
僕は1番上と2番目を行ったり来たりで、塾の中では点数高い奴が偉いので、塾で馬鹿にされたりすることもありました。
受験は塾も嫌だったんですが、家が嫌でしたね。6年生の最後の夏は、僕が勉強しないので、母親が毎日ヒステリックに怒って、絶叫していました。
算数はやらなくてもそれなりにできたんですが、好きな教科以外、特に国語が嫌いで、勉強がなかなか進みませんでした。
岡山)ご両親はどういう気持ちだったんだろう?
橋本) 元々は、息子のやりたいことをかなえてあげたい、と思っていたようです。
ただ、気が付くと目の前に受験のゴールがあるし、同じマンションの子どもたちは一番上のクラスにいたんですよね。僕だけたまに上がってもすぐ落ちてしまって。
受験って受かるか受からないかのゼロサムゲームのような側面がありますよね。それが僕以上に親のメンタルを蝕んでいた気がします。
中学受験のメリットとデメリットとは?
<石垣亮太(左)プロフィール>
英語を教えない英語塾「ESLclub 」教室長兼プランナー。化粧品業界のマーケターとして内資と外資で幅広く経験を積む。実社会でまるで役に立たない知識や、自分の思考を奪う学校教育の仕組みにかねてより強い疑問と危機感を抱いて、教育業界へ転職。
石垣)根底はリベラルな思想、「子どもに合うところへ」という思想から中学受験を利用しようと思い、いざ程よい距離感で中学受験へ取り組もうとしても、周りには良くも悪くも熱狂的な方たちも多いため、徐々に雰囲気に飲まれてしまうこともありますよね。
ESL club渋谷校でも英検から中学受験に目標を切り替えるご家庭がいらっしゃいますが、中学受験対策の話になると保護者の方がいつもと違って「あれも、これもやってください」とかなり前のめりになっているのを感じることがあります。もちろん、皆様不安だし、本当はどっぷり受験をさせたくないのだろうし、葛藤を抱えていらっしゃるとは思うのですが・・・。
岡山)英検は中学受験のような狂気はないのかな?
石垣)中学受験はなんとしてでも通りたい試験、一発勝負ですよね。
英検はあったら有利というスタンスですし、通常の受検でも年3回チャンスがあります。指導も個人個人だから切迫感はないし、そのお子さん軸で話ができますね。
岡山)ところで、アメリカではテスト廃止の流れがあって、例えばスタンフォード大学ではSAT(大学受験のための統一試験)を課さなくなったそうです。
人間自体を見るために、エッセイとか推薦状で決めていくんですね。日本の学校と全く違う方向に向かっているんですよね。
橋本)僕の中学受験の過程ではマイナスの思い出が多いんですけど、結果として早実に入れたことはプラスでした。
中高は楽しくて、たくさん仲間ができました。今も中学で会った友達と仕事していたりします。
就職活動では、早実出身者は就活をまともにしてた人が少なかったですね。1回偏差値を高く取るゲームを中学受験で経験したので価値観が違うというか、音楽とか自分のやりたいことを目指す友達が周りでは多かったです。
早実は退学とかにならなければそのまま早稲田大学に行けるので、本当に自由でした。
岡山)大学受験が必要なくなると、子どももそうだけど、親の姿勢も変わるんじゃないかな?
そのまま大学に入れちゃうから、家庭内も円満になって、子どもも自分の道を選べる。自由に育って、クリエイティブになれるかもしれないね。
中学受験の競争のさまざまな影響
橋本)中学受験は受かれば勝ち、落ちれば負けで、30年後の今もあまり変わっていない印象ですね。
一部のトッププレイヤーのマイノリティ層が有利な仕組みを作ると、下の人たちは疲弊していくじゃないですか。そんな空気は日本を象徴しているような…そのスタート地点、入口が中学受験じゃないかって思ったりします。
単一的な物差しで測られる世界があって、そこで勝った人がその価値観を持ってそのまま社会を作っている、そんな気がしますね。
岡山)全然サステナブルじゃないですよね、中学受験って。
石垣)中学受験経験した人って全然価値観違う人も多いですよね。
その世界が当たり前で、社会に出てもずっと中学受験の世界にいる人もいるよね。大学時代、就職活動の時に友人に言われた、「会社の偏差値って知ってる?」って質問は、すごい違和感を覚えたな。
橋本)大企業が学歴で大量採用して、規模の経済で勝てる時代があったけど、今それだけでは勝てなくなって、大企業で手の届かないところをベンチャー企業がさらっていたりもしますね。
今は終身雇用も崩壊して出口も変わっているので、中学受験のあり方ももっと変わってもいいんじゃないかなと思いますね。
長い目で見たときには、世の中の出口は間違いなく変わってくるので、いい会社に入るためにいい大学に行く、ということだけに捉われる必要はないと思いますね。
大学受験はAO入試などを利用して入れる大学に行ければよく、受験対策のために時間を使うより人間性や「ヒューマンスキル」を磨くために時間を使ったほうがいいのではないかと考えています。
教育を選ぶことは、未来を選ぶこと。
今、子どもにできることは?
岡山)親とは世代が20、30年違うわけで、子どもと世界観は確実に違うよね。自分がこれで成功したからうちの子にも、というのはどんどん意味がなくなってくるね。
橋本)今の僕が向き合っている社会の価値観で子どもに対しての教育を選んでいると、自分が受けてきた教育と今現在僕が向き合う社会にギャップを感じるように、20年後に子どもたちが向き合う社会が変わっているので、良かったと思ってくれるかどうか分からないですよね。
岡山)その観点では、教育を選択するって、要は未来を選択するに等しいよね。
その子どもの幸せ以上に、親が選んだ教育を受けた子が大人になったときに、その子が作ろうとする世界ってより幸せなのか? みたいな「世界の幸福度」を求めて教育を選んだ方が、意外にうまく回っていくんじゃないのかな?
「子どもがどう生きていくか」という視点が、人のため、世界のためだったら世の中が良くなるわけで、そう子どもが思ってくれる教育ってなんだろう、という選び方があってもいい気が個人的にしています。
石垣)そういう視点で教育を選んでいるご家庭の雰囲気って、なんだか心理的な安全を感じることが多いです。お子さんもよく笑っていて、温かな感じというか…。
岡山)それこそ、分断の向こう側にいる人の気持ちに少しでも立てるか?とか、他者の視点に立てるか?とかね。その「利他」の心があれば、さっき橋本さんが話した「ヒューマンスキル」、人間そのものの価値につながっていくと思ったんですよ。
橋本)今我が子に中学受験じゃなくてテニスをやらせているのは、好きになったものに対して「もっと上手くなろう」と工夫することが大事と思っているからなんです。
中学受験についての記事に書かれていたんですけど、中学受験を通してその勉強のPDCAを回せる習慣がつくと、それは生涯使えるスキルになります。ただ与えられたものを覚えるだけだと、受験でしか使えないスキルになってしまう。
一つの物事に向き合ったときにしっかり結果を出せる、転用可能な力をつけてほしいという願いがありますね。
岡山)「探究」と「利他」ってことですかね?
橋本)そう、「探究」軸と「利他」軸ですね。
岡山)あることに正解を見つけて、またそれを壊して、じゃあ次にどうしようっていうところ。それが「探究」にハマっている状態だね。
橋本)そうですね。単純にハマれば、それ自体楽しいですもんね。
岡山)「利他」の心があれば、世界の問題や物事が自分自身の一部なんだと思えて、他人の痛みが同じ痛みに感じられる。何か困ったら助けてあげようとか、何かできないかなって思うだけでもいいと思うんだ。
英語で世界を広げて、「探究」と「利他」へ
岡山)自分たちがいるESL clubや教育の場所から、今子どもたちに何が届けられると思う?
橋本)さっきの話の中学受験も成功するに越したことはないと思っているけど、それに時間を奪われるより、もっと人間性や、英語力を含めた大事な力をつけてほしいです。我が子をESL clubに通わせているのもそのためですね。
そうすれば、結果としていい大学に行けなくても道は開けると思っていて、受験勉強だけじゃなくていろいろな世界を知ってほしい。
入口でまず英語の基礎を学んでおくと、ESL clubではレベルアップするとディベートのコースや英語で探究学習ができるアーススクールがあったりするので、今はそこに進んでもらうための下準備ですね。
岡山)さっきの話の「探究」と「利他」は、アーススクールのテーマでもあるね。
アーススクール起点で世界を知ってもらって、結局は「利他」とは他者の視点に立てるかとか、その他者の範囲の広さとかだと思うんだよね。
その世界が自分たちが持っている中学受験の上部のエリート層だけの世界観だけで走っていたら、その範囲で終わっちゃうじゃないですか。世界も良くはならないし。
自分が見えていない世界の裏側にいろんな人がいるんだ、同じ人なんだって体感して、対話ができるといいよね。そうすると自分の中での「世界」「私たち」の定義が拡張していく、それが「利他」だと思うんです。
あとは探究的なこと言うと、「英語を学ぶ」から「英語で何か学ぶ」ってフェーズに行ってほしいね。
橋本)今、自分の子が大人になったイメージが一瞬浮かんできましたね。
今ある世界観の中で本当にやりたいことを探したり、アーススクールで社会課題のプロジェクトに参加したりして、人のためになっているという自己効力感を持って、いきいきと働いてくれたらいいかな。
岡山)そういう姿勢ならチャンスも降ってくるし、つかめると思うんだよね。
今の中学受験みたいに勉強勉強みたいになると、間違えるのが怖い、バツがもらいたくないという意識を人生にそのまま持っていくじゃないですか。
「遊ぶように学ぶ」じゃないけど「遊ぶように人助け」みたいな、それぐらいライトにやってみようかなと思えるといいね。
石垣)ESL clubで考えれば「趣味」にしてあげたいよね。普通に英語塾って呼んでもらいたくなくて、趣味でやってます、くらいにの感覚にしてあげたいんだよ。
テニス習いに行くのと一緒で、楽しい、楽しいからもっと習いたい、っていうね。
岡山)英語で世界が広がるんだ、っていう感覚は体験で持たせてあげたいね。英語ができることのメリットは、テストの成功だけではなくて、世界が大きく広くなるとか、知らない人と話せるとかいろいろあるからね。
「利他」っていうアイデンティティを拡張して、それをどう形に表現するかっていうことは、アーススクールでやりたいことでもあるんです。そのアクションがすごい大事だと思う。
橋本)その根幹になっているのは好奇心ですね。広い意味での探究力だと思います。
岡山)では締めの一言、石垣さんお願いします。5・7・5でもいいので。
石垣)え~(困った後少し沈黙)・・・
出ました、「認めよう 子どもの興味 些細でも」ですね。
例えば、自分がすごく仕事で忙しくて、タスクを5個ぐらい同時にやっているときに、子どもに「絵を描いたから見て」って頼まれたら、なるべくその時間を大事にしてあげたいなって思うんです。
子どもはいろいろなものに興味を持つ好奇心を、生まれながらにして強く持っていますよね。それを消してしまうのが私たち大人なんじゃないかと考えて、些細でも丁寧にやっていきたいっていうのを言葉にしてみました。
子どもが興味を持ってやってくれたことを、大人が丁寧に一つ一つ承認してあげていくことが、子どもの「欲求承認」を満たしていくんだろうし、「探究」していいんだ、っていう意欲にもつながっていくと思います。
ESL club3人の中学受験トーク、いかがでしたか?
終身雇用制度や働き方が変わる中で、振り返ると30年前と変わらない部分も大きい中学受験。
人間のよりよい未来に向け、物事に向き合ったときに結果を出せる力を身に付けるために、今回話題になった「探究」「利他」という新しい視点で教育を考えてみてはいかがでしょうか。
世界に向けて新しい見方を持つための手段として、英語力も大事にしていきたいですね。
子どもの教育を選ぶことは、未来を選ぶこと。
ESL clubでは、SDGsを含む幅広い世界のトピックについて探究学習を行うアーススクールも開講しています。
大事なお子さんの未来を、教育から考えていきましょう。
(執筆:島川渚)