遠野遥氏について
28歳で「破局」で芥川賞受賞、それ以前の処女作「改良」でも賞を受賞している。
その彼の三作目が奇妙な学園を舞台にした「教育」である。
作風
本人曰く連続性は「意識してない」そうだが、「破局」と「教育」には主人公の人物造形に一貫性が見られる。
細々とした規範を抱え込み、何があってもその通りにいわば機械的に処理していく主人公。その周りで事件が起きないこともなく、「破局」ではマッチョな主人公が破滅、二人のパートナーと破局し、「教育」では「真夏」というパートナーを追い詰め失う。
ところで、もっとも骨格のみでシンプルな小説は「改良」であり、主人公の少年は女の子に近づくべく自身の見た目を「改良」していくが、その果てに性暴力を受けかけるというもので、背後にはルッキズム的世界観がある。
「教育」の独自性
「教育」では奇妙な学園が舞台設定されており、巷間「ディストピア小説」と呼ばれているが、そこは問題ではない。
奇妙な舞台設定のおかげで、規範の複合体たる主人公の「機械性」がより露骨になるという効果の獲得に成功している。それを現代に生きる自分たちに当てはめ、「ディストピア」というワードが流行るのだろうと思う。
注目すべきは設定そのものではなく、設定によってより生き生きとする主人公の人格の方であり、そのおかげでもたらされる「真夏」の崩壊の方だろうと思う。