宇佐見りん氏について
「推し燃ゆ」で弱冠21歳にして芥川賞を受賞。
前年の三島賞「かか」に続いての受賞であり、同じようなものしか書けないのではないかという懸念もあったが、無事芥川賞を受賞。同期受賞には「改良」や「破局」の遠野遥がいる。
村上龍の読者から彼と仲睦まじかった中上健次に関心は移ったようで、「十六歳の地図」という出口の見えない小説を勧めている。
主題
主題は崩壊していく家庭、自分自身がままならない少女の主人公などが一貫して挙げられるが、本人曰く「毎回異なるものを書いている」。
そこには優れた肉体性があり、中上の愛読者であったというのも頷ける。思うまま動かない肉体を引きずって生活する少女と、それを責め立てたり後ろめたく思ったりする家族に囲まれて物語は進行する。
「くるまの娘」の独自性
「かか」では崩壊した母を「産み直す」べく熊野に旅立つ少女が主人公だったが、家庭の崩壊ぶりは「くるまの娘」が群を抜いている。
家庭のトラウマを抱えつつ自力で自分を育て上げ、暴力と仮借なき暴言、冷淡な側面を持つ父、脳梗塞以降、前向性健忘症に罹り過去の記憶に縋り付く母、それらを捨てて家を出た兄。
結論を先取りすれば、この小説は宇佐見りんの小説の中で初めて明確に「死」を見据えている。心中を躊躇した家族群を、仮初の日常の背後に見出す最後は圧巻だった。ここには、一少女の心象を超えた何かがある。家庭という密室に対して、政治も芸術も無力であると主人公に語らせるこの小説には、圧巻のリアリティを帯びることに成功している。
書評にしては個人的な感想に堕ちてしまったが、わたしはこれを読めてよかったと思う。