アメリカ・ノースカロライナで1年間高校時代を過ごしたESL clubの野々垣 彩香(ののがき あやか)先生。日本とアメリカの高校を体験して感じたことを前編・後編 の2回にわたってお届けします。
前編では、野々垣先生が感じたアメリカと日本の授業の違いや、「意外と似てる?」ことまで、たっぷり語っていただきました。
目次
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アメリカで母国語のように覚えた英語。洋書を読み続けてリーディング力をキープ
—まずは、野々垣先生の海外体験について教えてください!
現在は、獣医学部の4年生です。子どもの頃は、父の仕事の関係で3歳から6歳までカリフォルニアに住んでいました。プリスクール、キンダーガーデン、1st grade(アメリカの小学1年生)の途中までアメリカの教育を受け、7歳の時に帰国して日本の公立小学校1年生に入学しました。ですから人より少し長めに小学1年生を体験しています。中学・高校・大学では、それぞれ一般受験をして国立の学校に通いました。高校2年生の時には、留学斡旋団体を介してノースカロライナの高校に1年間留学をしています。
—日本で生まれ、3歳から6歳まではカリフォルニアに住んでいたということですが、その頃の英語力はどうでしたか?
日本語と同じように英語も普通に話していました。英語は文法を体系立てて学ぶのではなく、母国語を学ぶように耳から自然と覚えていったと思います。母の希望で、当時は家庭内でも英語を使っていました。今は両親と話す時は日本語ですけどね。
—7歳で帰国し、日本の公立小学校に入学した時は言語の壁を感じましたか?
言語は何の問題も無かったのですが、多少、日本の常識に欠けていたかもしれません。和式トイレの使い方や電車の切符の買い方が分からず、「知らないの?」と周りに驚かれることもありました。他にも、日本ではくしゃみをすると「誰かに噂されているよ」と言いますよね?あとは、きゅうりは河童の大好物とか。そういうことも知りませんでした(笑)。
—意外な部分が抜け落ちていたのですね(笑)。帰国後、英語力に変化はありましたか?
帰国後も洋書を読んでいたのでリーディングは維持できましたが、スピーキングは多少衰えたと思います。母の勧めで英会話スクールに通っていたものの、「日常生活が全て英語」という環境から離れたので仕方がないですね。ですが、中・高・大の受験において英語が武器になるレベルはキープできていました。これも、小さい頃に英語を身につけたおかげですね。
—確かに英語が得意だと受験ではかなり有利ですね!高校2年生の時にノースカロライナの高校に留学したのは何故でしょう?
アメリカが恋しくなったからです(笑)。アメリカには楽しい思い出がたくさんあったので、もう一度行きたいと思い、自分で留学斡旋団体に応募しました。
アメリカ留学で感じたこと①「授業が思っていたよりも簡単だった」
—日本とアメリカの高校を比較してみていかがでしょう?お子さんを海外の学校に進学させたいと考えている保護者の方もいると思うので、違いなど教えていただけますか?
あくまで私が体験した範囲での感想ですが、全体で見るとそこまで大きな違いはなかったと思います。「絶対にアメリカ(または日本)の方が良い、優れている!」とは言えません。結局は何を重視して選択するか、という話になると思います。といっても、制度や雰囲気等に多少違いはあるので、私が感じたことをお話ししますね。まず、私がアメリカの高校に行って感じたのは、思っていたより授業が簡単!ということでした。
—授業が簡単?
日本なら例えば、三角関数は高校1年か2年で習いますが、私が留学した高校では最高学年でも「三角関数?なにそれ」という生徒がわりと多くいました。日本で進学校に通っていたからかもしれませんが、応用問題も少ないし、授業の進みも日本よりゆっくりだと感じました。数学や歴史は宿題が毎日出ましたが、計算問題や教科書の内容をまとめてくるなど基本的な内容だけだったんです。
また、数学の授業やテストに電卓の持ち込みが許されているためか、計算や暗算が苦手な生徒が多かったです。驚いたのは、数式を入力するだけで二次関数などのグラフがかける電卓があるということ!効率性を重視しているからかもしれませんが、暗算や自分の手で図を描くといった作業が無いことに違和感がありました。
—それは確かに日本人にとっては違和感がありますね。どうして授業が簡単かつ、緩やかなペースで進むのだと思いますか?
私の考えですが、大学受験の方法が日本とアメリカで異なるからだと思います。
日本の大学入試は推薦やAOなどもありますが、メインは私立の場合一般入試、国公立であればセンター利用の一般入試受験ですよね。私も中学・高校・大学とそれぞれ受験を経験しましたが、入試日に向けてひたすら頑張るという独特の空気がありました。学校側も受験に向けたカリキュラムを組んでいます。知識を問う問題が多いので、学ぶべき内容が多く、授業は駆け足。高校3年生になるとクラスに少しピリッとしたムードが漂っていました。
一方、アメリカの大学の場合、高校の成績、本人のエッセイ、推薦状等を総合的に見て合否が判断されます。入試がないぶん、最高学年でも授業での緊張感が薄く、なんとなくゆったりた雰囲気になる傾向があるのかなと思いました。
日本は高校最後の1年間はとにかく勉強に集中!という感じですが、向こうはイベントも豊富で、みんな最後まで高校生活を謳歌している感じです。アメリカでは受験をせずに地元の中学や高校に進む人がほとんどなので、生徒同士も仲が良いんです。
—日米の大学受験制度の違いが、授業の進行度合いや難易度に影響を与えているのかもしれない、ということですね。
そうですね。でも、一つ疑問に思ったのが、高校まではあれほど緩いムードにも関わらず、なぜ大学はレベルが高いのだろう?ということです。アメリカには日本の最高峰とされる大学よりも難しい大学が多いですよね。
—アメリカの最難関の大学には世界中から優秀な人が集まるので、上位層が平均を上げているのかもしれません。または、アメリカの高校では問題解決の思考プロセスを学んでいるから大学入学後も学力が伸びやすいとかですかね?
うーん、そういった印象は受けなかったです。確かに国語などでは、答えが一つではなく、考えさせる系の問題が多く登場しましたが、思考力に特化してまではいなかったと思います。難しい授業を積極的に受講したり、チューター(家庭教師)を雇ったりするいわゆる「優等生」でも、日本でいえば普通かな?くらいの熱心さでした。アメリカの大学は授業についていくのが大変と聞きますが、それは高校がすごく緩かったぶんなのかもしれません。
私は海外の大学には通っていないので、あくまで予想ですけれど。
アメリカ留学で感じたこと②「授業への主体性や積極性は日本人と変わらない」
—では「授業が予想外に簡単だった」ほかに、感じたことはありますか?
よく「日本の生徒はシャイだから授業中にあまり発言しないが、アメリカの生徒は積極的に手を挙げる」と言われますよね。でも、先生が促さない限りはアメリカでも手を挙げる生徒は多くなかったと思います。
日米で違いがあるとしたら、当てられた時のリアクションでしょうか。日本なら先生に当てられると「えー!」とか「当てるのー?」と嫌がる人が多いですが、アメリカでは嫌がらずに普通に話し始める生徒が多かったです。問題の答えではなく、意見を聞かれることが多かったからかもしれません。例えば国語の授業では、「この隠喩表現で筆者は何を伝えようとしていると思いますか?」などの生徒の解釈を問う質問がよくありました。
ちなみに、生徒を当てるかどうかは各教科の先生によります。私の高校は1日4限までしかなく、一回の授業時間が長いためか、生徒を当てる先生は多かったと思います。
—長時間ずっと授業を聞いて退屈するくらいなら、当ててくれた方が良いかもしれません(笑)。
では、日本とアメリカで授業に対する積極性に違いはあまりない、ということですね。
そうですね。アメリカでも日本でも授業に真面目な人は真面目だし、「授業がだるい」と文句を言う人や、机の上に足をのっけている人、内職して怒られる人はどちらの国にもいました。あえて違いを探すなら、アメリカはクラスによっては授業中の飲食もOKなので、お菓子を食べながら話を聞く生徒がいたことくらいでしょうか。
—日本だったら授業中のお菓子は絶対にNGですよね。
向こうでは、先生が積極的に食べています(笑)。カップケーキを食べながら授業をする先生もいましたよ。
アメリカ留学で感じたこと③「授業もイベントも面白い!」
—今まで「授業のレベル」「授業態度」に関して伺ってきましたが、内容はどうでしょうか?
アメリカの授業はとても面白かったです!例えば科学でmol(物質量)という単位を習った時は、先生から「今度モルの日があるから、モグラに関連する好きな食べ物を持ってきてね」と言われました。
—え?どういうことでしょう?
1molは6.02×1023 で表す(アメリカ式に表記すると6:02 10/23)ので、10月23日の午前6:02から午後6:02の間は「モルの日」とされているんです。そしてモグラは英語で「Mole」。どうして食べ物を持って行くかは分かりませんが、molとMoleを引っ掛けて遊んでいるんです(笑)。モルの日の当日、私は切るとモグラに見える海苔巻きを作って持って行きました。
—楽しそう!それは印象に残りますね!
こんな風にイベントを絡めた授業がアメリカには多くあるんです。例えば歴史では、今習っている時代を象徴するコスプレをしてくる授業がありました。1980年代のアメリカのディスコみたいな派手な格好で学校に来るんです。その授業中はコスプレをしたキャラになりきった話し方をするというルールもあって、非常に盛り上がりました。
授業だけではなく学校全体でもイベントがありました。いろんな仮装をしてくる1週間というのがあって、月曜日は友だちと同じ服を着てくる「双子の日」、火曜日は「変な靴下の日」、水曜日は「パジャマの日」、木曜日は「キャラクターの日」などテーマが決まっているんです。靴下を自分で作ってくる子もいましたし、ハロウィンみたいな格好をしてきたり、とても賑やかでしたね。日本は高校3年生になるとイベントより受験勉強を優先する傾向があるので少し寂しいです。私も高校3年生のときは体育祭は見学していました。
—イベントは良い息抜きになるし、学校に行くのが楽しみになるので日本の高校ももう少しイベントを重視しても良いかもしれませんね。
そうですね。ほかにも、英語の先生が急に「今日は天気が良いから外で!」と言って学校の裏の木陰で青空教室を始めたり、学習と関連したゲームが始まったり。先生の裁量で授業が進むので、とても自由な雰囲気でした。「教科書35ページを開いて。ここを〇〇さん読んでください」という授業はほとんどなかったです。
—日本だと、例えば国語はそういう授業になりがちな気がします。
向こうの国語は、先生おすすめの小説を買って読んだり、自分で詩をつくったりするような授業ばかりでした。教科書は基本的にほとんど使わなかったですね。先生がホワイトボードに書いて説明することを聞きながら、自分たちでノートにまとめるので、ノートで勉強することが多かったです。そもそも教科書を買わなかったですし。
—教科書を買わないんですか!?
私も驚いたのですが、教科書は共有物でクラスに全員分が置いてあるんです。ハードカバーの分厚くて重い教科書だったので、持ち帰る人はあまりいませんでした。教科書を使わなくても宿題は自分のノートだけで十分だったので私もほとんど学校に置きっ放しでしたね。
—授業内容や教科書にも様々な違いがあるんですね。
とにかくアメリカの授業はイベントが盛りだくさんで面白かったという印象です。先ほども言いましたが、受験のピリピリしたムードがないし、ゆったりして面白い授業が多いので、高校生活を楽しむという観点からするとアメリカの高校は素敵だと思います。
—なるほど、とにかく高校生活を謳歌したい!という人は、アメリカ留学を考えてみるのもいいかもしれませんね。
いったんここで、前編のお話をまとめておきたいと思います。野々垣先生がアメリカ留学で感じたことは以下の3点でした。
1.授業の進行ペースや内容は各先生によって異なるが、アメリカの授業は日本よりゆったりかつ簡単だった
2.アメリカは授業を含め学校全体でイベントが多い
3.授業態度や授業への積極性は日本とアメリカで大きな違いはない
後編では、アメリカと日本、2つの異なる国で教育を経験した野々垣先生が最終的にどちらの国をおすすめするのかを聞いてみました。ぜひ、ご期待ください!
(聞き手、執筆:佐野 友美)
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