海外のインターナショナルスクール(以下、インター)と日本の高校には、どのような違いがあるのでしょうか?今回は、海外の学校で学んだことのあるESL clubのバイリンガル講師、道上 雅大先生とジョウ・コニー先生にお話をお聞きしました。授業やテスト、宿題など、何から何まで違うことばかり!?海外の高校でのおもしろエピソードから日本の教育の課題まで、たっぷりと語っていただきました!
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海外と日本の教育、自分の子どもにどちらを体験させたい?
—まずは道上先生とコニー先生、お二人について教えてください。
道上先生)道上雅大です。今は東京大学大学院の2年生で、今年(2020年)の4月から外資系企業への就職が決まっています。父の仕事の関係で、幼少時にスイスと韓国で2年ずつ暮らしていました。日本に帰国後は、小学校から大学まで日本の私立(慶應)に通っていましたが、高校2年生のときに1年間、韓国のインターに在籍していました。
コニー先生)ジョウ・コニーです。早稲田大学の基幹理工学部に通っていて、今は4年生です。私はカナダで生まれて、8歳まで現地の公立小学校に通っていました。卒業後は日本の公立中学校に通って、高校のときに中国に引っ越し、北京のインターに3年間通いました。
<道上先生>
幼少期:スイス、韓国
7歳〜15歳:日本の私立小学校、中学校
16歳:日本の私立高校
17歳:韓国のインター(高校)
18歳:日本の私立高校に復学
<コニー先生>
0〜8歳:カナダの公立小学校
8歳〜15歳:日本の公立小学校、中学校
16歳〜18歳:中国のインター(高校)
—高校時代を海外のインターで過ごした経験を持つお二人にまずはこの質問から!将来子どもができたとしたら、日本と海外(インター)の高校、どちらを体験させたいでしょう?
道上先生)いきなり答えにくい質問ですね(笑)。僕は日本と海外どちらも体験してほしいです。日本とインターでは教育スタイルがかなり違いますし、両方とも良い面と微妙な面があるので。
—道上先生が思う日本とインターの高校の教育スタイルの違いは何だと思いますか?
道上先生)大雑把に言えば、日本の教育は受験勉強が中心で、多くの知識を正しく効率よく学ぶことを重視していると思います。一方、インターでは知識を効率よくインプットするよりも、自主性や想像力、発信力を育むことを大事にしている印象を受けました。もちろんこれは僕の主観なので、全てに当てはまるわけではないと思いますが。
あ、でも数学は日本で学んだ方が良いと思います。インターでは授業やテストに電卓の持ち込みが許可されているためか、暗算が苦手な人が多かったんです。因数分解を電卓で計算しだすのを見たときは、正直、驚きました。僕が暗算すると「お前の頭はどうなってるんだ?」と向こうも驚いていて(笑)。暗算は絶対に必要?と聞かれると困ってしまいますが、自分の子どもには身につけてほしいと思うので、数学は日本で学んでほしいです。
—数学は日本で、その他は子どもの性格や能力次第ということですね。コニー先生はいかがでしょう?
コニー先生)私は海外の教育の方が自分に合っていたし、インターの授業が楽しかった思い出があるので、子どもができたら今のところは海外を勧めたいと思っています。海外の高校やインターの方が子どもが楽しく過ごせるのかな、と。
道上先生)確かに楽しさで言えば、インターかもしれないですね。
インターのここが良い!「自分の好きな科目を学習することができる」
—インターの方が楽しいと思うのは何ででしょう?
コニー先生)自分で勉強したい科目を決められるからです。私の高校では科目が必修と選択の2種類に分かれていて、選択科目については生徒が自由に選ぶことができました。
道上先生)僕の通っていたインターも科目選択制でした。だから人によって時間割が違いますし、授業ごとにクラスメイトの顔ぶれも変わります。同じ授業に2、3学年異なる生徒がいることも普通で、日本でいうと大学のようなイメージです。
—確かに、自分で選んだ科目なら授業に対するモチベーションも上がるし、楽しいかもしれませんね。
コニー先生)選択科目は多種多様で、例えば私はfilm studies(映画学)の授業を受けていました。映画を考察したりミュージック・ビデオを制作したりして、とても面白かった記憶があります。
—映画学なんて科目が選べるのは羨ましいです!
コニー先生)自分の好みや、習熟度によっていろいろな科目を選ぶことができました。将来やりたいことからの逆算という視点で科目を選ぶこともできます。理系志望だからレベルの高い数学を履修しておこうとか、理系の難関大学に行きたいからStatistics(統計)をとっておこうとか。
—高校でStatistics(統計)も学べるんですか。film studies(映画学)やStatistics(統計)などインターの科目は本当に幅広いのですね。
コニー先生)日本だとStatistics(統計)は大学で学ぶ科目ですよね。インターの場合はAP科目(※)の1つにStatistics(統計)があったので、学力など一定の条件を満たせば、高校生のうちから勉強することができました。
選択肢が多いと自分の好み、難易度、進路といった様々な視点でバランスよく勉強することができます。科目選択の自由はインターで学ぶ魅力の1つですね。自分が選んだ授業なら比較的楽しく受けられると思うので、日本の高校も選択できる科目をもっと増やしたら良いのになと思います。
※AP(Advanced Placement)とは
高校在学中に大学の入門レベルのカリキュラムと試験を提供する早期履修フログラム。AP科目を修了すると進学先の大学で単位として認められる場合がある。
知識の暗記が中心の日本の教育、実技や自分の考えを伝えることが多い海外の教育
—日本の高校にも科目選択の自由が欲しいということですが、他にも日本の教育で「こうなったらいいな!」と思うところはありますか?
コニー先生)テストを変えてほしいです。
—というと?
コニー先生)日本では美術や音楽、家庭科といった科目にも中間や期末の筆記試験がありますよね。家庭科のテストには野菜の切り方がイラストで載っていて、「これはみじん切りですか?」と聞かれる。「このテスト、何の意味があるんだろう?」と正直謎でした(笑)。正しいみじん切りの絵が選べるかどうかより、包丁がきちんと扱えているかどうかで評価してほしいです。
—確かに(笑)。インターだと実技科目には筆記試験は無いのでしょうか?
コニー先生)音楽や家庭科は選択していなかったので分かりませんが、美術は描いた絵を提出することがテストでした。
道上先生)僕の通っていたインターでは体育に筆記試験がありました。当時はaerobic exercise(有酸素運動)などの英単語がよく分からず苦戦したのを覚えています。まあでも、インターのテストと日本の高校のテストはかなり違うと思います。特に歴史は違いが顕著でした。
—日本とインターの歴史のテストには、どんな違いがあったのでしょう?
道上先生)インターの歴史のテストは、考えないと回答できない問題が多かった気がします。「19◯◯年に起こった事件の名前は?」という暗記問題より、「19◯◯年に△という事件が起こりましたが、それはどんな事件でしたか?何故起こりましたか?事件についてあなたはどう思いますか?」など、生徒の考えを問う問題が中心でした。もちろん人名や出来事の名称を答えさせる問題も出題されましたが、日本よりは少なかったと思います。
—テストが生徒の考えを問う形式だと、授業内容も変わってきそうですね。
道上先生)授業も生徒に考えさせるものが主流でした。「この問題の答えは何でしょう?」ではなく、「これに対してどう思いますか?」と聞かれることが多かった気がします。
—思考力が鍛えられそうですね!他にもインターのテストに日本との違いは感じましたか?
コニー先生)日本と違って、インターのテスト形式は複数あります。例えば数学は筆記試験、英語はエッセイ、国語はプレゼンテーションというように、授業や先生によって様々でした。例えば、歴史の期末テストは与えられたテーマについてポスターを作成して展示会に提出するというプロジェクトと、筆記試験の2つでした。化学の期末テストは自分で考えた実験をみんなの前で発表するというものでしたね。
—みんなの前で実験するテスト、面白いですね!評価はどのようにされるのでしょう?
コニー先生)実験がどのくらい上手にできたか、実験結果が思うようにならなかった場合は原因と結果をきちんと解析できているかが評価基準でした。みんなの前で実験をするのはすごく緊張したし、事前準備に時間はかかりますが、筆記試験のための勉強よりも楽しかったです。知識の詰め込みではなく、「実験が成功するためにはどうしたら良いか?」と考えることが必要になるので、学びも深くなるのではないでしょうか。
—確かにそうですね。ちなみにテストが筆記試験ではなく、プロジェクトやプレゼンの場合、知識はどうやって身につけていくのでしょうか?
コニー先生)日々の小テストです。
—なるほど、小テストや期末テストを含めて評価が決まるんですね。
コニー先生)評価といえば、日本は評価の段階が少ないですよね。インターはAからDまであって、それぞれAマイナス、Aプラス、Aのように3段階に分かれていました。
—ということは全部で12段階!道上先生の通っていたインターも細かく評価がわかれていたのですか?
道上先生)どうだったかな。日本でも、僕が通っていた高校は評価が20段階に分かれていたんです。
評価に関してインターで面白いなと思ったのは、成績がひと月ごとに出るということです。日本だと通知表は学期末に見るくらいですけど、インターだと毎月ネットでチェックできたので良いモチベーションになりました。
—なるほど。日本でも取り入れてみても良い方法かもしれませんね。
英語学習はバランスが大事!文法と実践、両方を組み合わせることで効果アップ!
—インターでの授業中の雰囲気ってどんな感じなんですか?
コニー先生)先生によってだいぶ変わります。教科書通りに授業を進めて毎回小テストをする厳しい先生もいれば、自分用のコーヒーとクッキーを持ってきてたくさん雑談をする英語の先生もいたり。
道上先生)お菓子を食べながら授業をする先生、いましたね。飲食しても注意しないので、ハンバーガーを食べたながら授業を受けたりしてました。その後、日本に帰国してすぐのときに、お腹が空いて授業中に弁当を食べようとしたら先生から「何やってんだ!」と言われて、ハッとしました。
—「日本に帰ってきたな」と感じる瞬間ですね(笑)。飲食のほかに、日本と違うことはありましたか?
道上先生)授業中に眠くなったら、立ったり、歩き回ったりするのは自由でした。眠くなったら動けばいいし、お腹が空いたら食べても良い。その代わり、授業には集中しなさいと。
—自由と厳しさのバランスが絶妙ですね(笑)。
道上先生)インターには、日本だとかっちり決められているところに自由がありました。科目が選べたり、テストの方法が複数あったり、授業で飲食や動き回ることが許されていたり。あと日本とインターで違ったのは宿題の量ですかね。インターは宿題が多いです。
コニー先生)特に、教科書を読んでくるという宿題が多いかもしれませんね。歴史や国語だと毎回10ページくらい。
道上先生)僕はインターに入学した当初、英文を読むのが得意ではなかったので、この“読んでくる宿題”には相当、苦労させられました。英英辞典で調べながら、なるべく和訳をせずに頑張って…。気づいたら、自分でもびっくりするくらいリーディング力が上がっていました。おかげで帰国後はより難易度の高い英語クラスに入ることができました。
ー大量に英文を読んだかいがありましたね!道上先生は高校2年生のときに日本の私立高校に復学したとのことですが、日本の英語の授業が簡単すぎたり、違和感があったりしませんでしたか?
道上先生)僕の通っていた高校はレベル分けが徹底されていたので不満はなく、むしろ良い授業だと思ってました。ディスカッションやプレゼンテーションを行うことも多く、特にプレゼンはインターよりもたくさん練習したと思います。
—よく日本の大学受験英語は文法重視という理由で批判されますが…。
道上先生)僕の場合は、日本の文法中心の授業がかえって良かったです。インターで感覚的に身につけた英語を、文法を詳細に学ぶことで体系化できたので。
コニー先生)文法と実践的な練習を、もう少しバランスよくできたら良いと思うんですけどね。文法を細かく学ぶことにも、もちろん利点はあるので。
—やはりバランスが大事なんですね。
ここで、今まで伺ったことを大まかにまとめてみます。(注意:全てのインターに当てはまるわけではありません!)
●知識を正しく効率的にインプットするには日本の高校がおすすめ(特に数学!)
●楽しさ重視ならインターが良いかも
●インターは学ぶ科目を自分の好みや習熟度、将来からの逆算で自由に選ぶことができる
●考えさせる、自分の意見をきちんと伝える授業が多い
●インターのテスト方法は筆記やプロジェクト、プレゼンなど複数ある
●インターは宿題が多い(特に“読んでくる宿題”)
●インターは授業中の飲食や歩き回ることがOKな場合がある
—ちなみにお二人は、海外の大学に進学することは考えなかったのでしょうか?
コニー先生)考えましたけど…。学費が高くて(笑)。
道上先生)特にアメリカの大学って学費がめちゃくちゃ高いんですよ。4年間で1千万円を超えることもあります。
コニー先生)日本は安いですよね。私はアメリカやカナダの大学も考えていましたが、学費や気候を考えた結果、日本にしました。
道上先生)生活費もかかることを考えると、お金はだいぶネックになりますね。もとから金持ちでない場合は、めちゃくちゃ優秀になって奨学金を貰うか、借金するか。受験の評価基準も違うので、海外の大学に行きたい場合は学費含め、早めに対策しておいた方が良いと思います。
—最後はとても現実的な話になりましたね(笑)。インターの高校や海外の大学に興味がある方は、ぜひ早めの準備を!道上先生、コニー先生、本日は貴重はお話をありがとうございました!
(聞き手、執筆:佐野 友美)
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