「海外の第一線で学ぶ学生たちは、どんな教育を受けているのか?」
英語を学び、海外に関心がある方は、こんな疑問を一度は抱いたことがあるかもしれません。
今日は、アメリカの名門ボーディングスクール、ローレンスビルに通う現役高校生の藤井新(あらた)さんに、お話をおうかがいしました。
日本の教育、そして国内インターナショナルスクールの教育も受けたうえで、米国ボーディングスクールに進学した藤井さん。
そこで出会った「ハークネス」という独自教育メソッド。
藤井さんはこのハークネスメソッドに完全に魅せられたといいます。
現役高校生ながら、日本の教育を変えるために非営利団体を立ち上げ、また英語塾での新サービス立ち上げをインターンで形にしてしまったスーパー高校生、藤井さん。
この藤井さんを藤井さんたらしめたハークネスメソッドとはどんな教育なのか?また、藤井さんはどんな教育を受けてきたのか?
海外教育を検討している親御さん、学生さんはきっと何かヒントになることがあると思います。
ぜひ、読んでみてください!
藤井新(アラタ)
現在高校三年生。国立学園小学校、セントメリーインターナショナルスクール卒業後、アメリカの名門ボーディングスクール、ローレンスビルに進学。アメリカで主流のハークネスメソッドを日本で普及させたいという強い思いから「ハークネスを日本へ」を立ち上げた。
目次
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アメリカの名門ボーディングスクールに通う藤井さんのバックグラウンド
スタッフ 藤井さん、こんにちは。今日は藤井さんについて色々とお話をお伺いしたいと思います。
藤井さん はい、ぜひぜひ。なんでも話しますので、よろしくお願いいたします。
スタッフ まずは簡単に藤井さんのバックグラウンドをお話しいただけますか?
藤井さん 僕は小学校まではいわゆる「日本の教育」を受けてきましたが、中学校でインターナショナルスクールであるセントメリーに進学しました。そこで受けたPBL(プロジェクト型学習)にとても刺激を受けました。
そこから、「海外にはもっといろんな教育があるのかもしれない…。もっとそんな世界を見てみたい!チャレンジしたい!」と思うようになって、思い切って高校からアメリカに行くことにしたんです。今はアメリカのニュージャージーにあるボーディングスクール、ローレンスビルスクールに通っています。
スタッフ 今、藤井さんは日本にハークネスメソッドを広めるための非営利団体を立ち上げられて熱心に活動されていますね。教育に興味を持ったきっかけを教えていただけますか?
藤井さん アメリカのボーディングスクールに来てからハークネスメソッドに出会いました。
ハークネスメソッドは、アメリカのトップスクールが採用する授業法なんですが、生徒と教師が共にひとつの楕円形のテーブルに座りディスカッションを行います。そこで、明確な答えのない題材を探究していきます。その探究の中で、他の生徒の意見や主張を受け止め応答する事で、コミュニケーションスキルやリーダシップスキルが身についていきます。
そんなハークネスメソッドで僕自身が自分の意見を表現したり、ディスカッションをしていく中で、徐々に「自分の意見を発信出来る学生が日本にももっといたらいいのにな」と思うようになったんです。
スタッフ 何か、日本の学生と接して思うことがあったのでしょうか?
藤井さん はい。高校一年生が終わった夏にNPO団体で多文化共生に関するボランティアを行ったんですね。
そこで、日本にいる学生と協力してプロジェクトを進めたのですが、日本の教育で育った学生とアメリカの教育を受けている学生との間に、仕事をこなすスピードの差やクオリティにギャップがあるなと感じました。また、日本にいる学生は異文化に対して壁を作ってしまっていると感じて、「この原因は何なんだろう?」と考えて…。
話すと長くなるので、結論に至ったプロセスは省略しちゃいますが、「この原因は日本の教育にあるのでは?」と自分なりに考えて思ったんです。
個人的な意見ですが、日本はテストというシステムにとらわれすぎていると感じていて、もう少しコミュニケ―ションに重きを置くべきだと考えるようになりました。
僕はハークネスメソッドのようなインタラクティブな教育を受けてきたから、自分で発言する力や傾聴力が身に付いたし、同時に学ぶ楽しさに気づくことが出来ました。日本にもこのような教育を持ってこれればいいなと思い、活動しています。
「自分が住みたい国を作る」がモチベーション
スタッフ それにしてもすごい行動力ですよね。ここまで行動できる藤井さんのモチベーションはどこから来ているんですか?
藤井さん 一番は日本に居たいという気持ちです(笑)
僕は自分が日本にいたいからこそ、自分が住み続けたい国を作りたいと思っています。昔は日本のコンビニは使いやすい等、ただただ住みやすいという理由で日本にいたいと思っていましたが、今は違います。
アメリカにいると、自然と国内の格差に目がいくようになりました。僕は学校のボランティア活動の一環として町の貧しい地区にある施設で、教育関係の活動を2年程行っていました。そこで僕は日本ではありえないような格差を目の当たりにしたんです。
日本は「どれだけ格差をなくせるか」という社会ですが、アメリカは違う。そのアメリカの格差を実感したからこそ、日本がどれだけ素晴らしい国かを実感しました。
ただ日本は、平等はあってもイノベーションが少ない。アメリカは格差が激しいですが、イノベーションが多いんです。
日本にある平等はアメリカでは作れないものですが、アメリカにあるイノベーションは日本でも増やすことができるのではないか。そこで僕は、「アメリカを変えるより、日本を変える方がよりよい社会を作れる可能性が高いのではないか」と思ったんです。
「できるだけ日本の平等を重んじる社会のなかで、どれだけイノベーションを起こせるのか」そんな実験をしたいんです。それで何か結果が出れば他の国にも適用できるし、真似したくなるような国になりえます。
僕のような思想を持っている人は沢山いるんですが、やはりそれを実行するとなると難しいんですよね。社会全体で変えていく流れができたらいいと思います。ボトムアップの変化が必要で、そのために教育が一番変化を作りやすいのではないかと思っています。
スタッフ 今の藤井さんに大きく影響を与えたであろうご両親の教育方針はどんなものだったんですか?
藤井さん 自由に僕がやりたいことをやらせてくれました。ずっと勉強してたわけではなくて、何かやりたいことがあればそのために機会を用意をしてくれましたね。自分で何でもやらせるスタイルでした。
僕が小学校一年生の時に、パソコンがどうやって動いているのか気になり、お父さんに聞いたら、「じゃあ、作るか?」と聞かれて(笑)。一緒に材料を買いに行きました。材料と作り方が書かれた紙を渡され、持ちろん危ない工程は父が付き添ってくれましたが、全部自分で作りあげました。
お父さんと一緒にパソコンを作る藤井さん
母も今振り返ると、「自分でやることが大事」とよく話してましたね。
この「なんでも自分で自由にやらせる」という教育方針が、「その気になれば、なんでも自分でやれるのでは?」という今の自信や行動力につながっている気がします。
主体的に学ぶ楽しさは、様々な知識が自然と結びつくこと
スタッフ ハークネスメソッドのように主体的に学習するうえで大事だと思うポイントはありますか?
藤井さん 僕は理系文系関係なく、様々な分野のことを学ぶことが大事だと思います。
例えば、僕は経済学と歴史の授業を取っていますが、経済学と歴史の授業それぞれで学んだことが自分の頭の中で繋がるんです。それがまた別の社会学の授業で学んだこととつながって、また別で読んだ本とつながって・・・となっていくんです。幅広く色々なものを学ぶことが大切なんです。
子ども達がそれぞれ学びたいことを学べれば、頭の中で自分が学んだ物同士でコネクションを作って、その中で生まれた興味が学習へのモチベーションになっていくのではないでしょうか。
ハークネスメソッドはそういうことが自然とできるようにデザインされていると思いますね。色々な場所で学んだことが、予想しないところでまた別の何かとつながって…。このつながる瞬間が「面白い!」って感じるポイントなんだと思います。そうすると、別に先生が変に動機付けをしなくても、勝手に学びは楽しくなっていくと思いますね。
ハークネスメソッドのおかげで、教育サービスを自分で立ち上げることができた
スタッフ 藤井さんが実際に、「これはハークネスメソッドが活きたなぁ」と思った瞬間はありますか?
藤井さん インターンをした際に役に立ったと思います。
教育とビジネスに興味があったので、英語の学習塾でのインターンを申し込みました。「日本人に合ったコンテンツを作りたい」と、やりたい事をインターン先に言ったみたところ、TOEFLクラスの新設を全部任されました。いきなりですよ(笑)
できるか少し不安だったのですが、一人でサービスコンテンツを作って、集客のために広告を入れたり、講師の管理、ウェブデザイン、マーケティング、コールセンター業務、裏のオペレーション、マネジメント、クオリティ管理など、もうほんと全部やりました。
でも、できちゃったんです。
業務を通してハークネスで培ったコミュケーション、リーダーシップ、柔軟性が活きたと思います。自分でもびっくりしました!ハークネスは仕事の面で活きるスキルが身に付くなぁと体感しましたね。
自分にとって新しいこともありましたが、行動力、抵抗なく新しいものに挑める力、また、ハークネスの「自分で学んでインプットするのが当然」という前提に慣れていたことのがすごく役に立ったと思います。
もちろん私も失敗したことはたくさんあります。でも挑戦を続けていく中で、「失敗しても無駄な選択肢が消えてよかった。じゃあ次は、何を試そう?」ぐらいに思うようになりました。
藤井さんがインターンで立ち上げたサービスサイト。デザインからコーディングまで、全て独学しながら制作した。
スタッフ 藤井さんの失敗してもあきらめない強さとハークネスメソッドは、どう関係しているのでしょうか?
藤井さん ハークネスメソッドの議論をするスタイルが関係していると思います。
ハークネスは問題を紐解くことで、様々な疑問が生まれてきます。そして共有しているゴールにたどり着くために、みんなで議論し合う。その中で批判し合ったりすることもありますが、お互いがリスペクトしあっているという前提があるので、批判を受け入れる力もつきますし、逆にクリティカルに物事を考える力もつきます。
すぐには導けない正解を、みんなで議論をしあっていく。決してあきらめずに、深く深く、探究していく。このスタイルは、「失敗してもあきらめない強さ」と関係していると思いますね。
スタッフ 藤井さんと同じ学校に通うクラスメイトにはどんな人たちがいるんですか?
藤井さん アメリカのブルームバーグニューヨーク本社で株のトレンドについての講演を行った友人がいます。本当にすごいです。
後は、コロナでマスクが手に入りづらくなった時には募金活動をしてマスクを買い、地元の医療機関に届けたりする活動をした友達がいたり、他には最近話題になっているBLM(Black Lives Matter)の活動、イスラム教徒の友人はイスラム文化理解を広げるための活動を行っていたり。ちなみにその友人はイェール大学のモデルUN(模擬国連)でトップなんです。
スタッフ やっぱり同級生の存在は大きいですか?
藤井さん そりゃあもう(笑)ほんと凄いやつだらけなので、とてもいい影響を受けていると感じますね。
ローレンスビルには自主的、主体的に活動をしている人が多いと感じます。
卒業生には、元ウォルトディズニーカンパニーCEO,元BBCワールドワイドCEO,元モルガンスタンリーCEOとCFO,ヒューイ・ルイス、アリババの共同設立者ジョセフ・ツァイなど、著名人も多いです。
スタッフ 今様々な活動をされている藤井さんですが、最後にずばり、ご自身のキャリアプランを教えてもらえますか?
藤井さん 正直あまり決まっていません(笑)
将来は、ビジネスを主として社会学や教育を学んだあと、コンサルティング系の企業にでも就職するのかなあ?経験を積みながらゆっくり考えていきたいと思っています。
それとは別にこれからもハークネスメソッドを広げる活動はビジネス関係なく非営利でやっていきたいです。
スタッフ 藤井さんのこれからの活躍、とても楽しみです!今日は貴重なお話、ありがとうございました!
おわりに
いかがでしたでしょうか。
このインタビューを読んで、「え?本当に高校生?」と思ったのはきっと私だけではないはず…。
私が藤井さんに出会ったのは、一般社団法人「答えのない学校」が実施したワークショップでした。
ワークショップでは、意識の高い優秀な教員の方々を相手に堂々としたプレゼンでハークネスメソッドを説明し、また実際にハークネスメソッドをファシリテーションする藤井さんのことをよく覚えています。
私はその時、藤井さんにこう聞きました。
「ハークネスメソッドを受けてきて、一番良かったと思うことは何ですか?」
藤井さんは、その場の空気がパッと明るくなる素敵な笑顔で、こう答えました。
「どんな考えにも価値があると思えるようになったこと。だから僕は、『ハークネスメソッドを日本に広げよう』という考えを大切に、今こうして活動できています。」
藤井さんの、豊富な背景知識から導かれる批判的かつ多面的思考力。また、自らで実際の世界を前に動かしていく主体的な行動力。
それは藤井さんが高校生であることを忘れるほどで、立派なビジネスパーソンと会話をしている感覚でした。
こんな高校生たちがハークネスメソッドを用いて正解のない問いについて議論している。アメリカのエリート教育が見据える世界を感じました。
藤井さんは今、「ハークネスメソッドを日本へ」という団体を立ち上げています。無料でハークネスメソッドを体験できるようですので、興味がある方はぜひ申し込んでみてください。
また我々「英語を教えない英語塾ESL club」も、ハークネスメソッドに似た思想のもと、正解のない問いについて英語で探究学習を行うオンラインスクール「アーススクール」を運営しています。もし興味があれば、体験してみてください。
読んで頂き、ありがとうございました!