三島の遍歴について
いま輪読ゼミ(文学コース)では三島の『仮面の告白』を時間をかけて精読していますが、実はこれが最初期の三島ではありません。戦後文学史に屹立する三島由紀夫は、大きく分け3期に分けられます。
- 戦前の「天才少年」だった時期
自薦短編集などで、10代の初期短編を読むことができます。この時期に、国文学者蓮田善明に才能を見出されます。 - 戦後の「不道徳」な時代に合わせようとして再デビューした時期
君主主権から国民主権に政体が変化し、宮沢俊義が「八月革命論」を提出した時期、『仮面の告白』で鮮烈なデビューを果たします。その後、『禁色』で作家として不動の位置を確立します。 - 「鏡子の家」が売れず戦後社会への適応を放棄して反動化した時期
政治の季節、1960年代には、戦後社会への涙ぐましい適応を放棄します。『文化防衛論』の末尾にある新聞への寄稿が象徴的ですが、『英霊の聲』から始まり、『憂国』や『F104』を発表します。政治活動も活発になり、全共闘に論争を挑んだり、一橋の学生に「ティーチイン」を行ったりしました。その最期は、みなさんが知る通りです。
読んでいるテクストが、作家上どの時期のものなのか、そしてどのような歴史的現実にポレミッシュに関わることで成立しているのか知ることは研究の基本であり、精読のコツでもあります。
今回は三島についてご紹介しました。
- この記事を書いた人
- 荻野 智明
駒場東邦中に進学。トップ学生だったが、物理と化学に嫌気がさし、医師である両親と同じ職に就くことにも嫌気がさしたため、私大医学部を蹴って東大に後期で入学。
人間に関わる人文系への興味が根本にあったため、哲学と法学を学ぶ。好きに学問を追求し、中国の占いを2年間独学し、今に至る。
・2006年 駒場東邦入学
・2012年 東京大学文科一類入学
・2018年 国家総合職経済区分合格
・2019年 東京大学法学部卒業