こんにちは。ESL clubの岡山です。
「海外も含め、将来を自由に選択し、生きがいある人生を歩んでいってほしい」
お子さまに対し、このようにお考えの保護者の方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
今回の対談では、テニスの分野において世界で活躍する子供たちを見てきた「いなちん先生」をお招きして、世界で活躍する子供の特徴や、そういう子供を育てるために心がけていることなどをお伺いしました。
稲本昌之さん(いなちん先生)
19歳の時に日本最大のテニススクールにてコーチをはじめる。26歳から1年3ヶ月のスペインテニス留学を経てジュニア指導の責任者を務め、40歳で退職。現在はテニスのYoutubeチャンネルで「いなちん先生」として活躍中。自身の経験からグローバル社会を生きる上で海外体験の重要さを感じ、子供が海外に触れる機会を作り、その様子を発信している。
岡山太
「ESL club」事業責任者 兼 「明光義塾」英語教科責任者。長期留学経験なし、国内独学で英検1級・TOEFL iBT 100点を達成。自身の英語学習経験を生かし、ESL clubのオリジナルカリキュラムを構築。現在は全国の明光義塾の英語指導力強化にも努めている。
目次
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「自分で何とかする力」を育む第一歩は、あきらめずに主張すること
岡山太(以下、岡山):
ESL clubでは、できる限り小学生のうちに留学させたいと考えています。親から離れる期間を作り、英語を使って自分自身で困難を乗り越える経験を積ませたい。失敗をする経験、失敗からリカバリーする経験を積ませたいんです。それくらいしないと、海外でも通用する主体性が培われないと考えているからです。いなちん先生のところでは、どうでしょうか。
稲本昌之さん(以下、いなちん先生):
海外遠征の時、保護者は一緒に行きません。子供は初めこそ緊張していますが、5日目くらいで慣れてきます。単語レベルでしか英語が話せなくても、海外の子供たちや指導者がフランクに接してくれるので、ジェスチャーと合わせて何とか伝えようとするんですね。子供たちは順応性が高いので、だんだんと楽しめるようになっていきます。もちろん一線を超えたら注意しますが、そうでなければ、多少、羽を伸ばすくらいは見守るようにしています。
海外で外国人とテニスをする日本の子どもを見て一番感じるのが、海外のプレーヤーに比べると「自分で何とかする力」が低いことです。実はジュニアテニスでは、審判が付きません。セルフジャッジ(選手自身で判定すること)をするんです。
岡山:
へー!そうなんですね。知らなかった。
いなちん先生:
たしかに、日本では考えられないかもしれないですね。セルフジャッジでは、選手同士で必ずもめるんです。このとき日本の子どもは、相手から文句を言われても何も言い返せず、黙ってしまいます。一方で、海外の選手は、とことん主張します。
日本の選手は、僕も含めて、こうした「自分で何とかする」というやり取りが非常に苦手です。さらに悪いことに、もめた後、日本の子どもたちは分かりやすく崩れてしまうのです。事実上の勝敗がセルフジャッジのやり取りでついてしまうということも、実際よくあります。
そのため、子供たちには言葉が分からなくても、あきらめずに主張するように教えています。まずはやらせてみる。すると、すぐにできるようになる。気が付いた後の成長は早いです。
意識を変えなくてはならないのは、子供だけではありません。以前、日本で開催した大会で、一人だけ海外の子供が参加していたのですが、ジャッジでもめた時に、その子だけが英語で強く主張して、他の子や保護者が冷ややかな目で見ているという場面がありました。
この時に保護者の方へ、「海外の大会に出たら、あの主張がスタンダードなんです」と説明しました。すると保護者の方々は、一様に納得してくださいました。大人の意識も変えていく必要があるのだと思います。
失敗を許さない環境が、子供の成長を阻害する
岡山:
海外と日本の子供では、どのような違いがあると思われますか?
いなちん先生:
テニスの現場だけで言うと、日本では上下関係が強いと感じます。海外でもありますが、日本ほどの強制力はありません。やりたくなかったら率直に言うし、「なんでやるの?」と平気で聞ける。コーチもそれに対して淡々と答えます。
日本の子供たちは、成長のスピードもクオリティも、はじめはとても早いです。海外は甘えも出しながらなので、時間がかかります。どちらがいいという話ではありませんが、ひとつ言えるのは、海外の強い子は「没頭」しているということ。考えなくても自然と、目の前のワンプレイ、ワンプレイに没頭できるのです。
一方、日本の子は「集中しなきゃ!」と、頭で考えて集中する。「没頭」できる子は、10人に1人いるかいないかだと思います。ここに大きな違いがあると感じています。
岡山:
「失敗したらどうなる?」と気にすることが、没頭を邪魔しているのでしょうか?
いなちん先生:
はい、そう思いますね。日本の子どもたちを取り巻く環境は、どんどんと失敗を許さなくなっていると感じます。今の子は、スポーツをやるにしても、例えばスクールかどこかに通って、大人の監視下で行動します。結果、挑戦の振れ幅が少ない環境になってしまっている。失敗しづらい環境なのです。そういう環境にいると、子どもたちは失敗からのリカバリーの方法を学ぶことができません。
没頭して楽しむ。10歳までにたくさんの経験をさせる。
岡山:
子どもの成長についてですが、ESL clubの生徒を見ていると、例えば10歳前の子は英文を丸呑みしているかのようにどんどんと吸収しています。特に文法などで「なぜそうなるのか?」はわからずとも、自然にどんどんと英語を吸収していきます。これは、10歳を境に子どもは、認知の仕方が変わり、抽象的な事象を理解し、また自分と相手を明確に区別するようになっていくためだと考えています。
同じような傾向が、英語習得だけでなく、海外体験にもあります。どういうことかと言うと、10歳未満で海外に行くと、子どもたちは異文化を異文化として認識するのではなく、「世界」をまるで自分の一部にしてしまうような感覚で、「自分にとって当たり前のもの」として捉えているように感じます。このような「年齢の壁」はあると思われますか?
いなちん先生:
ありますね。おっしゃるとおり、まずは10歳です。テニスに限らずスポーツや教育分野では低年齢化が進み、英才教育が浸透しているかと思いますが、10歳の時点で強い子は、それから先も安定して強い。
一方で、10歳でテニスを始めた子は10歳の時点で強い子に追い付けることももちろんありますが、追い付くのは18歳くらいになってしまいます。それぐらい、10歳までの英才教育は影響が大きいと言えます。
試合でも、10歳より前に試合に出始めている子は遊び感覚で臨んでいます。「勝ち負け」ではなく、「ゲーム」としてテニスを捉えられるんですね。対して、10歳を超えてから試合に出始めた子は、身構える傾向があり、どうしても勝ち負けを意識します。
先ほどの「没頭できるか?」という話ともリンクしますが、テニスをゲームとして捉えている子は没頭しやすいです。没頭できる子は相手との勝負に集中できる。「勝てるかな?負けたらどうしよう?」といったことを考えるのではなく、「次はどこに打ってくるだろう?」という駆け引きを純粋に楽しんでいます。子供が成長するには、この没頭して楽しんでいる状態を経験させることが重要だと考えています。
正解を押し付けない。大人ができるのは、そっと背中を押してあげること。
岡山:
海外に行って、すぐになじめる子はいるのでしょうか?
いなちん先生:
そういう子は少ないですが、スペインのコーチに向かって、いきなり大阪弁で「あほか」「ちゃうやん」と話しかける子がいたんです。僕にはとても真似できない。しかも、その子は11歳がはじめての海外でした。
岡山:
すごいですね(笑)。ご両親の影響があったりしたのでしょうか?
いなちん先生:
お父さんに海外経験がありました。「海外に行ったら、自分から話しかけていかないといけない」「話しかければ受け入れてもらえる」ということを、お父さんが常々話していたことは大きかったと思います。
岡山:
ESL clubでも、子供が自分で何とかする力を身につけるために、我々も含めた周りの大人ができることは何だろうかと考えています。
いなちん先生:
僕はいつも、「僕も正解を分かっていないよ」と言っています。昔は、大人が正解を知っていました。しかし今は、ほとんどの大人が「次の時代の正解が分かっていない」のに、分かっているフリをしないといけません。
次の時代の正解を導くのは子供たちの方が早いかもしれない、とすら思っています。
関西弁で外国人にどんどん話しかける子もいれば、英検を持ってても話せない子もいます。大切だと思うのは、「引っ込み思案の子がダメだ」と白黒をつけないこと。大人の勝手な正解を押し付けないように気を使っています。
岡山:
そういう引っ込み思案のタイプの子は、そっとしておくのですか?
いなちん先生:
そっとはしておかないですね。「何か言おう」「『おはよう』とスペイン語で言ってみよう」などアプローチをして、積極的に関わることを促します。
スペインのコーチはノリよく話しかけると必ず応えてくれるので、それが子供たちにとって一つの成功体験になるんです。2週間で魔法のように変わるというわけにはいきませんが、1年、2年経つと確実に変わっていきます。
逆に、「なんだお前、できないじゃん」と冷やかすようなことは、絶対に言わないようにしています。
主体性を持たせるには、まずは肯定することが大事
岡山:
ESL clubの子も、英語が話せなくても、どうにかして伝えようとする子は目立ち、活躍している傾向にあります。活躍できる子と、そうでない子。この差が生まれるのは、英語力だけではなく、「自分に何ができるか」を常に考えているかどうかだと思います。
こうした主体性を持った子供を育成する手法には、どのようなものがあるのでしょうか。
いなちん先生:
僕は「肯定すること」を心がけています。コーチは、必ず正解を持っています。けれど、コーチの思う正解を押し付けないようにしています。
たとえば、試合が終わった後に「なんで負けたの?」とコーチが聞いたとします。ある子は「相手の打ってきた球に落ち着いて対応できなかったから」と答えます。一方で、「わからない」と答える子もいます。
日本の指導者はシンカー(思考)に寄っていることが多く、前者の「うまく説明できる選手」の方が優秀だと考えがちです。しかし実際は、必ずしもそうではありません。「なんで負けたか分からない」と言っているような子の方が、次の日に活かせてたりするんです。この子の場合は、言語化はできないけれど、感覚で掴めているんですね。
シンカー(思考)とフィーラー(感覚)に優劣はありません。その子の特性なのです。なので、その特性を認め、「まずは肯定すること」を大切にしています。
結果だけでなくプロセスを評価する。子供の成長には楽しく継続させる仕組みが必要。
岡山:
「子どもたちを何で評価するのか?」という観点も重要な気がしますね。日本はテスト、偏差値で評価しますが、海外は違います。スポーツやボランティア活動、それこそ「家族を大切にできるのか?」「主体的に行動できるか?」といった、定量化できないような能力も面接で見たりします。
「勉強だけはとにかくできる」といった、たった一つの評価軸では、子どもたちを評価したりしません。いなちん先生の話を伺っていると、この点、日本よりも海外の評価法の方が理にかなっているように感じます。
いなちん先生:
日本人は、一つのことをとことんやることがよしとされる文化がありますよね。そうではなくて、もっといろいろな軸で子どもたちを見てあげるのが大切ではないでしょうか。
たとえば現状の日本では、「今すぐに成果は出ないし、成績もいまいち。だけど、海外では人間関係をすぐに築ける。」といった数字や結果として見えづらい能力を評価する指標がないと感じています。
ESL clubでも同様に、「英検合格」といった結果にばかり囚われてしまったりしませんか?
岡山:
はい、もちろん、「英検に合格してほしい」という保護者の思いもありますし、「やるからには受かってほしい」という我々の思いもあります。そういう意味では、「英検合格」といった結果はもちろん大切です。
一方で、ESL clubでは「英検合格」といった結果だけでなく、プロセスも評価してあげています。どういうことかというと、「英検の点数が上がった」といった結果だけでなく、日々の学習の取り組みも同じように評価するのです。
英語学習では「音読」や「シャドーイング」といった、テニスで言えば素振りといった日々の練習が非常に重要になってきます。ESL clubでは、この「日々の練習」にしっかり取り組んだだけでシールがもらえます。そして、シールがたまるとバッジがもらえる!これが生徒は大好きです(笑)。単純なことかもしれませんが、このように「英検合格」という結果だけでなく、「ちゃんと毎日頑張れたね」とプロセスも褒めてあげることも非常に大切だと思います。結果だけにフォーカスすると生徒が疲れてしまうので、プロセスもしっかり評価してあげるわけです。
プロセスはしっかりこなしているのに結果が出ないという場合は、「シャドーイングのやり方がおかしいのかもしれない」とプロセスに誤りがないかを探り、生徒の取り組み方を修正していきます。こうすることで、生徒は「例え結果が出なくても、焦らずに毎日取り組むことが大事なんだ」と考えられるようになり、学習を継続していけるのです。保護者に対しても、プロセスの大切さと安心感を伝えることを心がけています。生徒と保護者とESL clubの3者で、目的とそこに到るまでのプロセスを共有することが重要だと考えています。
いなちん先生:
プロセスがきちんとしているのに結果が出ない子は、すごい可能性があると思います。プロセスと結果がリンクする人は手堅く成功するかもしれないが、爆発力がない。プロセスと結果がかみ合ってないだけで、不完全燃焼の状態の子もいます。プロセスを評価して継続させてあげることができると、何か新しいものが生まれる可能性を感じますね。
岡山:
成長の閾値を超えるまでのプロセスを評価してあげて、閾値を超えるまでの停滞期をいかに楽しく、やめさせないかは大切にしています。
私自身も英検1級、TOEFL100点を取ったのですが、途中はとても辛かった経験があります。そんな時、「大丈夫、大丈夫。継続していれば必ず英語力は上がる。継続できているからOK」とプロセスに注目して、とにかく自分を励まし続けました。正しい学習法を継続していれば、必ず英語力は上がってきますから。
いなちん先生:
なるほど。いい意味で「手を抜く」のが、継続するためのポイントなのかもしれませんね。テニスで言えば、日本よりヨーロッパの子の方が得意かもしれません。ヨーロッパではテニスが上手な子でも1週間くらいなら平気で休むことがあります。抜き過ぎてしまう人もいるので一概にどちらがいいとは言えないのですが、何かと頑張りすぎてしまう日本人は見習うべき点があるかもしれません。
これからの時代に必要なのは、人生というゲームを楽しむ力
岡山:
正解を出すのは日本人の得意なことですが、社会における正解がなくなってきていると感じています。これからどんどん社会が変わる中で、幸せに生きるために必要なこと、大切なことはどんなことだとお考えでしょうか。
いなちん先生:
ぱっと思いつくことは2つあります。ひとつは、お金に対する基準をしっかりと持つこと。もうひとつは、他人に対する評価基準をしっかり作ること。分かりやすくいうと「お金持ちの人を羨ましいと思うかどうか」です。
若い世代と話すと、いろいろな挑戦をしています。ただ、その価値基準が「いくら稼ぐか」「他の人がこういう生活をしているから」ということに目がいっている人が多い。
一方で、海外の人はいい意味で他人に興味がありません。お金に関しても、日本はいくら持ってても心配している人が多いですが、僕の知っている海外の方は過剰に心配していません。
僕は、幸せを感じる能力が非常に大切だと思っています。海外で暮らしてみると、日本に住む権利があって、生活できるだけで幸せだということが分かります。日本はめちゃくちゃいい国なんです。たとえば、菓子パンがコンビニで100円で買えて、半年ごとに7割が入れ替わる。どこにいっても、安心で安全。こうした当たり前のことを幸せと感じられるかが重要だと思います。
日本人はみんなすごく優秀で、勤勉さでは世界でもトップクラスです。上手く回り始めるとどこに行っても上手くいきます。しかし、「なぜそれをしているのか?」という目的を明確に意識していない方が多い印象です。大切なのは、目的を見つけること。そして、隣の人と比べないこと。比較をしてしまうと、新しいことにチャレンジしにくくなります。ここに関しては、僕自身も、独立をしてからもがいているところです。
岡山:
「海外」という場を利用して、「今までの自分」や「日本」という枠組みからずれてみることで、新しい自分だけの軸が見つかると思っています。「比較しないゲーム」と言うんでしょうか。他人との比較で生きるのではなく、自分軸で人生をゲームのように楽しむことが重要な気がします。
他者と比較して自分に視点を向けるのではなく、外に向けてみる。メタ認知をして、比べないで楽しむ。そういったことが大切なのではないかと思います。
いなちん先生:
「比較しないゲーム」というのは、とてもいい言葉ですね。
僕はよく「錦織選手の試合はなぜあんなに面白いのか?」をよく考えるんです。彼は、テニスを知らない人が見ても面白い試合をします。何するか分からないという凄さは、フェデラーやナダルを除くとピカイチです。本人は、ただただゲームを楽しんでいる。余計なプレッシャーがあると、あそこまで楽しいテニスにならないのではないかと思います。
岡山:
なるほど。周囲の目を気にしたり、勝ち負けにこだわるのではなく、ただ目の前のゲームに没頭して楽しむことが、「何をするのだろう?」という周囲の期待を生むことに繋がるのかもしれないですね。この辺りは、「新しい価値を作る人が優秀」というこれからの時代に求められるスキルに通じるところがあるようにも感じます。
今回、お伺いしたお話から、そういった目の前のことに没頭するためには、自我が芽生えて周りを気にし出す前に、実践という経験を積んでいくことが重要なのだと感じました。
ESL clubとしても、普段接することのない世界と触れることができる「留学」や「サマーキャンプ」といった手段をなるべく早い段階で子どもたちに経験してもらうことによって、失敗を恐れず、挑戦を楽しめる人材を育成していきたいと改めて思いました。
いなちん先生、本日は貴重なお話をありがとうございました。